オフショア開発で最も重要視すべき点は「コミュニケーションの問題を解決すること」です。相手先は異文化の異国であり、異なる言語、異なる教育によって育ってきた人々ですから、そこには必ず言語の壁や価値観の違いが出てきます。しかし、逆をいえばコミュニケーション問題さえうまく対処できればプロダクトは円滑に進めていくことができます。
そこで今回の記事ではオフショア開発で生じやすいコミュニケーションの問題と、その解決方法・対処方法について説明していきます。
プロダクトの内容が正確に伝わらない
オフショア開発においてプロダクトの内容を理解してもらうことは極めて重要なことですが、ブリッジSEのレベルの差や翻訳の精度といった点で仕様書の内容が正確に伝わらないという問題が起こります。
そもそもシステム開発やアプリ開発というものはゼロから組み立てるもので、目に見えない概念的な理解が必要な仮想的な開発です。そのため日本人のあいだでも仕様書の内容を最初から完璧に理解しあうことは難しいですし、認識のずれもよく起こります。日本人同士でも正確に伝わらないならば、当然外国人に正確に伝えるのは余計難しくなります。たとえ仕様書の「翻訳」がいくら完璧であっても、システム開発特有の目に見えないもの(概念的なもの)の相互理解はなかなかはかどりません。
「目に見えないもの」をいかに正確に伝えるか、理解してもらえるか。オフショア開発ではその点での意思疎通、コミュニケーションの問題が頻繁に出てきます。ではこの問題を解決するにはどうすればいいのでしょうか?
言葉だけのコミュニケーションではどうしても伝わらないときは、完成イメージを視覚化して見てもらうのが効果的です。つまりワイヤーフレームやモックアップの活用です。これらの方法は視覚的に設計デザインを理解するためのもので、言葉の説明だけでは伝わらない概念的なものの相互理解に役立ちます。視覚を通すことで意思疎通の失敗や発注先の見落としを減らすことができます。
仕様書の内容が正確に伝わっていないのに発注先が開発に着手してしまうと、間違ったものが出来上がってしまい、修正ややり直しが増えて時間もコストもかかります。オフショア開発においては言葉だけではなく視覚的な理解が可能な体制を作ることが重要になります。
ブリッジSEのレベルに問題がある
オフショア開発で重要な役割を果たすのがブリッジSEです。ブリッジSEは発注元の日本と発注先の国とを結ぶ大事な役割を担う存在ですが、すべてのブリッジSEが必ずしも優秀ということはなく、そのレベルにも差があります。
・プロダクトの内容を説明してもブリッジSEが理解できない
・曖昧な日本語表現を正確に訳せない
・通訳レベルが低く両国のビデオ会議がスムーズに進まない
こうしたコミュニケーションの問題はオフショア開発でよく起こります。また、地理的な問題(物理的な遠さ)から通信環境が悪く日本語の発音が聞き取りにくく理解が進まないといったことも起こります。
オフショア開発はなによりも密なコミュニケーションが重要ですから、ブリッジSEの採用も慎重に進める必要があります。
・その人物がどれだけの言語能力があるか
・英語のコミュニケーション能力はどうか
・日本のビジネスに精通しているか
・日本企業で長年働いていた経験があるか
・日本人の価値観や習慣に理解があるか
といった点を見定めて、事業の支障が出ない優秀なブリッジSEを採用すべきです。一度も会ったことのない人材を採用するのはリスクが大きいので、できれば実際に面談してどの程度の能力を持ったSEなのかをチェックしたほうがよいでしょう。
日本と現地のコミュニケーションギャップ
国というものは文化や成り立ち、風土、気質、人間性などが微妙に異なります。このような点が異なるということは、言葉における価値観、受け取り方、コミュニケーションの習慣、仕事に対する意識も異なるということです。この点が問題となってオフショア開発が失敗するケースも多いです。
日本人同士ではコミュニケーションにおいて「お互いが空気を読む」のはあたりまえですが、海外ではその価値観が通じないことがあります。日本人であれば仕様書のなかに曖昧な表現や、ぼやけた表現があってもそこに含まれる意味を読み取って対応することが可能ですが、異国の現地人にはそれが通じないことが多いのです。
例えば「よきにはからえ」的な指示は「あなたに任せる、一任する」という意味合いがありますが、だからといって日本人はなんでも好き勝手にやるという受け取り方はしません。相手の言葉の真意を読み取ってうまく処理します。しかし、現地人にこのような指示をすると本当に好き勝手に作ってしまうことがあります。これもコミュニケーションにおけるギャップです。
ほかにも「できれば~してほしい」という指示を出しても、現地人のほうは「それほど強い要求ではないから対応しなくてもいいだろう」と受け取ってしまうことがあります。そこで「~してほしい」という言い方から「~しなさい」という強い言い方に変えると現地人もしっかりと対応してくれる・・・ということがよくあるのです。
ちょっとした言葉の使い方の違い、ニュアンスの違いが業務の進行に大きな影響を及ぼすということです。その国の国民性や言葉の価値観、受け取り方を理解しておかないとコミュニケーションギャップによって失敗する恐れがあるので、十分に注意しましょう。
相手の対話力に配慮すること
ブリッジSEにしろ、英語ができるコミュニケーターにしろ、相手は「日本語を母国語としていない人たち」ということを理解すべきです。どれほど優秀な人材だと感じても、彼らは日本で育った日本人ではないので日本語の語彙力は日本人以上ではありません。日本人に指示する同じレベルの文章をそのまま渡してもコミュニケーションが成り立たないことがあり、場合によってはコミュニケーションではなく単なる一方的なアナウンスメントと同じレベルになってしまうことがあります。
彼らは「異文化の言語を使うことを強いられている」ということに配慮し、日本語の言葉遣いや文章の書き方を平易に変えて、わかりやすくしてあげることが大切です。単に言葉を平易にするだけでなく、理解しにくい言い回しや難しい文法は避けること、日本特有の省略語などは使わないこと、こうした配慮を心がけて対話を行いましょう。
具体的には、
・カタカナの省略後は使わない(プロマネ、コスパなど)
・二重否定は避ける(辞退したいわけではない、行かないわけではない、といった表現)
・難解な言葉を避け、なるべく平易で簡潔な言葉と文法を使う
・日本にしか浸透していない業界用語は避ける
日本国内ではあたりまえに通じるものでも、現地のSEやコミュニケーターには通じないことが多いということを理解してコミュニケーションを図っていきましょう。
オフショア開発では文化や慣習が異なる相手とコミュニケーションをするわけですから「伝えたいことを正しく伝える」にはこちら側もそれなりの努力が必要です。文章での説明であれ、リアルタイムの会議の場であれ、正しい情報が正しく伝わらないと間違った認識のまま開発が進んでしまう恐れがあり、そうなると成果物が仕様とはかけ離れていたり、修正を何度も繰り返す必要が出てきたりとリスクが大きくなります。再度の説明、再度の修正、再度の会議がなんどもなんども続くと互いに疲弊してしまいます。
このような悪循環にならないためにも、オフショア開発におけるコミュニケーションの問題点を事前に把握し、対応の仕方や対処法を明確にしてから事業を進めていくようにしましょう。