【目次】
はじめに
オフショア開発とは
オフショア開発が人気のワケ
オフショア開発失敗の原因になりやすい3つの壁
IoTの技術で解決できるオフショアの壁
オフショアでIoTを導入する課題
おわりに
はじめに
IoT時代に突入した現代では、さまざまな分野でIoTの技術が活用されはじめ、その技術によって大きな変化が生じ始めています。このようなIoT技術の活用はオフショア開発の場においても検討されており、近い将来その常識を覆すような新たな変化が生じると期待されています。
一方、オフショア開発においてIoT技術を導入するには、解決しなければならない課題も多く存在し、現時点ではそれらの問題をどのように解決するかがオフショア開発の将来を左右するといえます。
今回はIoT時代におけるオフショア開発で生じる変化や課題について考えてみます。
オフショア開発とは
オフショア開発とは、システムやソフトウェアなどの開発業務を海外の開発会社や子会社に委託する開発手法です。
コーディングやプログラミングといった開発工程や、システムテストの実施といったテスト工程などの業務を海外に委託することで、現地の安い人件費によるコスト削減を図ったり、優秀なIT人材を必要なタイミングで必要な時だけ確保することが狙いです。
オフショア開発が人気のワケ
人件費が安い
オフショア開発が人気な理由としてまず第一に挙げられるのが、人件費の安さです。IT人材が不足し、エンジニアやプログラマーの人件費が高騰している日本とは違い、東南アジアなどの国々では、若くて優秀なIT人材を安価に確保することができます。現在オフショアの委託先として1番人気のベトナムにおけるエンジニア人件費は、日本の約1/3程度です。人件費が安いと、開発コストを大幅に削減することができるので、日本のIT企業はこぞって海外進出しているのです。
優秀なIT人材を確保しやすい
次に、優秀なIT人材を確保しやすいという点があります。日本では高待遇で募集をしても優秀なエンジニアやプログラマーは集まりにくいという現状がありますが、東南アジアなどの国々では官民一体でICT教育を推進し、オフショア誘致を積極的に行っているので、エンジニア自体の数も年々増加傾向にあります。そのため、若くて優秀なIT人材を必要な時に必要なだけ確保することができるというのもオフショア開発の魅力の1つです。
海外進出しやすい
ひと昔前は、オフショアでの海外進出に大規模な投資が必要でしたが、近年はスカイプなどの遠隔会議システムが発達したことにより、海外進出のハードルがかなり下がりました。現地へ頻繁に行く必要もなくなったので、渡航費や宿泊費もかなり抑えることができるようになり、オフショアへの投資が少額からスタートできるという点も近年オフショアが人気な理由です。
オフショア開発失敗の原因になりやすい3つの壁
IoT時代のオフショア開発について考える際には、現在行われているオフショア開発のデメリットを知っておかなければなりません。
現在行われているオフショア開発のデメリットには、「距離・時差・言語」という3つの要素の影響を受けているという特徴があります。
距離の壁
オフショア開発では、時差のある海外の国とともに開発プロジェクトを進めていかなければなりません。たった2~3時間の時差だとしても、出社時間の違いやお昼休憩の違いなどから、頻繁に電話やメールでの連絡をとることは難しく、万が一トラブルなどが起きた際に、迅速な対応をすることが難しくなってしまうというデメリットがあります。
文化の壁
互いに育ってきた国が違うと、働く環境や、商習慣などの文化も大きく異なります。そのため、互いの認識のずれが生まれやすく、「順調にプロジェクトが進んでいると思い込んで少しの期間放っておいたら、とんでもない製品が納品された」なんてことにもなりかねないのが、オフショア開発のリスクです。
言葉の壁
IoTの技術を導入することで、解消できる可能性が最も高いのが「言語」の壁です。特に語学力が世界的にみても劣っている日本人にとってこの壁の存在はオフショア開発のプロジェクトにおいてとても大きいです。この言葉の壁が、オフショア開発のプロセスにおいて障害となっているのが設計書や仕様書を作成する段階です。
オフショア開発では、作成した設計書や仕様書を現地の言葉へ翻訳しなければなりません。このような翻訳の作業は、余計な手間とコストがかかってしまいます。ですが、このような翻訳の問題は、IoT技術を活かした多言語翻訳技術が向上すると解決できるようになります。また、AIと多言語翻訳技術を併用すれば、言葉の壁を打破することだけでなく、翻訳した設計書の内容から、そのまま技術者に指示を出すといったこともいずれ可能となり、人件費の大幅な削減や作業の効率化もできるようになるかもしれません。
IoTの導入で解消できるオフショアの壁
言語の壁の他にも、IoT技術の導入により解消できる問題はまだまだあります。
近年、IT技術者の育成に力を入れているベトナムをはじめとした東南アジアの国々では、技術者が増えることによって個々人の能力格差も広がっています。
同じプロジェクトに携わる技術者AとBのうち、技術者Aは一日に15件の仕事をこなせるのに対し、Bは一日に8件の仕事しかこなす能力がないとします。しかし、日本側は個々の技術に差があることに気づかず、双方に10件ずつの仕事を割り当ててしまいます。Aは余裕をもって作業を終わらせられるのに対して、Bは締め切りまでにすべての作業を終了させることができず、効率化を図れないどころか、Bが担当した箇所だけ精度が悪くなってしまうといった問題も実際のオフショア開発の現場で起きている課題です。
このようなケースでIoTの技術が導入されると、技術者ごとの能力をデータ化し、生産性を明確にすることで、それぞれに割り当てる仕事の量や内容を調整することができるため、プロセス全体での大幅な効率化が図れるようになります。
オフショアでIoTを導入する課題
オフショアの現場にIoTの技術が導入されるとさまざまな問題が解消できるというのは間違いありませんが、その一方で現状ではIoTの導入を阻む課題も数多く存在します。その一例としては、IoT技術のの導入にかかるコストの高さです。
AIなどを搭載したIoT機器は現時点ではまだ高額であり、オフショア開発に必要なIoT機器を購入するのは困難です。さらにオフショア開発はそもそもコストを削減することが本来の目的であることから、そのオフショア開発を行うために、高額なIoT機器を購入していては本末転倒となってしまいます。
また、現状ではオフショア開発自体のデータが十分ではなく、実際にオフショア開発の現場でIoT技術を導入するところまでにはいっていないという課題もあります。
おわりに
最後に、この記事のポイントをまとめます。
- オフショア開発とは、システムやソフトウェアなどの開発業務を海外の開発会社や子会社に委託する開発手法
- 近年オフショアが人気の理由は、人件費の安さや人材確保のしやすさが関係している
- オフショア開発のデメリットは、「距離・時差・言語」の影響を受けている
- 近い将来、IoT技術の導入によりオフショア開発は大きく変化すると予想されている
- IoT技術の導入によりもっとも解決されやすいと考えられるのが言語の問題
- オフショアにIoTを導入する課題はデータ不足と、導入コストの高さ
さまざまな業界で大きな変革をもたらすことが予想されるIoT技術の進歩は、オフショア開発を行う企業にとっても大変魅力的であり、将来的な導入を見越した準備を始めておく価値は十分にあります。しかし、現状でIoT技術を導入するにはまだ課題が多く、オフショア開発本来の目的がコストの削減であることを顧みれば、現時点でのオフショア開発へのIoT技術導入は時期尚早のケースも多いといえます。
オフショア開発におけるIoT技術導入を考える企業は、時代の変化を注視しながら、IoT技術を導入する最適な時期を見極める必要があるといえるでしょう。