はじめに
ITの世界というのは昔も今も目まぐるしく進歩しているものです。それに伴ってIT用語も新しいものが毎日のように出現しています。
このため、よほどITに詳しくないかぎりはこれらを使いこなすのは至難の業といえます。IT関連の業務に携わっているわけではない人でも、用語に詳しければそれだけ仕事の幅も広がることは間違いありません。どのような業種においても知っておくことで打合せがスムーズに進むこともあるでしょう。
ここでは最近よく聞かれる「オフショア開発」という言葉について詳しく見ていきましょう。同僚には恥ずかしくて言葉の意味を聞けないという人はぜひ参考にしてください。
「オフショア開発」とは
「オフショア」という言葉がITの世界で盛んに使われるようになりました。オフショアというのはもともとサーフィンで使用されていた言葉です。shoreは「岸」、offは「離れる」という意味から、岸から沖合に向かって吹く風(陸風)のことを指します。この逆に海から陸に向かって吹く風は「オンショア」と呼ばれています。
さて、このオフショアはITの世界では企業の業務の一部を海外に移すことを意味します。オフショアの最大の目的のひとつは人件費の削減にありますから、日本国内よりも人件費の安い国に業務を委託することがオフショアということになります。
特にITの世界ではソフトウェアやシステムの開発を人件費の安い国に任せることを「オフショア開発」と呼んでいます。このオフショア開発が日本で始まったのは1970年代のことです。
この時代には米国の優秀な技術を獲得することを目的として、特にハードウェアの面でオフショア開発が行われていました。その後、80年代になるとソフトウェア面でのオフショア開発が盛んになってきました。
90年代には中国やインドでのオフショア開発が試みられましたが、中国オフショア開発が脚光を浴び始めるのは2000年代になってからです。最近ではソフトウェアやシステムばかりではなく、コールセンターや住所の宛名書きといったIT業界以外の分野の業務までオフショアで行われています。
異なる言語を母国語とする人達に業務を任せるわけですから、現場ではさまざまな問題点や困難な点があるのはもちろんのことです。
オフショア開発では国選びが大切
オフショア開発に伴う問題点というのは数限りなくあります。言うまでもなく異国に業務を任せようとするわけですから、言葉はやはりどうしても壁になります。ひと昔前まではオフショア開発というとハードウェアやソフトウェア、システムのみのケースが多かったため、言語に関してはどの国でオフショア開発をしても問題はなかったのですが、近ごろはコールセンターなどもオフショアリングしているため、言葉の問題はどうしても無視できません。打ち合わせにおいては誤解のないようにしっかりとコミュニケーションを行うこと、仕様や品質などの面で食い違いが生じないように相互理解を徹底していくことなどが最重要の課題となっています。
言葉と並行して、その国民性や文化などにも細かく気を配ることがオフショア開発では必要不可欠です。日本人は何よりも仕事優先で残業もいとわない仕事好きの国民ですが、他の国の社員に同じメンタリティを要求するのは無理な話です。
さらに宗教色が強い国の場合には、その国の宗教を重んじて対応していかないと業務がスムーズにいきません。オフショア開発先として日本ではベトナムを好む傾向が強いのですが、これはベトナム人があまり宗教に縛られていない国民性だという理由が大きいようです。ベトナムは基本的に仏教ですが、宗教に対するスタンスは日本とだいたい同じでかなりあっさりしていると言っていいでしょう。国民のほとんどが親日家であるというのもベトナムの大きなメリットとなっています。
オフショア開発のメリット
オフショア開発のメリットのひとつは人件費を安く済ませることができるということにあります。日本人のエンジニアというのは年々人件費が高騰する傾向にあります。オフショア開発を率先することによって開発コストを最低限に抑えることができるわけです。
オフショア開発というと以前は中国が主流でしたが、中国自体の人件費が上昇したこともあり、近ごろでは人件費が更に安いベトナムやフィリピンが注目を浴びています。また、インドネシアやミャンマーなども有力なオフショア開発先として期待されています。
ただし、オフショア開発で誤解してはいけないのは「人件費が安い=品質が劣る」というわけでは全くないということです。特にベトナム人エンジニアなどは非常に質の高い技術力を備えていますから、オフショアリングすることによって人件費を抑えられるだけではなく、高レベルの開発をすることが可能になってきているということも無視できない事実です。
ベトナムに優秀なエンジニアが多い背景としては、質の高い仕事をすればするほど目に見えて給与が上がっていくというシステムが関係しています。ITエンジニアの給与水準は300~5,000ドルと個人差が非常に大きく、本人の努力次第で給与が10倍以上になるわけですから、それだけ勉強熱心になるわけです。海外に業務を任せるといってもベトナムであれば時差はわずか2時間ですから、時間のズレも気になりません。
時差2時間半のミャンマーも優秀で安定した労働力の供給先として人気です。
オフショア開発における今後の課題
オフショア開発を利用している日本の企業は約半数程度にものぼっています。それだけオフショア開発が日本に浸透してきているということですが、比較的新しい雇用体系であるだけに、今後の課題も山積みというのが現状です。
まず、案件が生じるたびに必要な数のitエンジニアだけを集め、案件が終わったらそこで終わりというパターンから脱するのが今後の大きな課題のひとつです。案件が終わる都度優秀な人材を手放していたのでは、オフショア開発のたびに契約の手間や品質の差がでてきます。この点を改善して「ラボ型開発」に切り替えれば契約期間中は優秀なエンジニアをキープしておけることになります。システム開発ではいい人材を確保していればそれだけいい仕事が仕上がってくるわけですから、長期的な目でエンジニアを確保しておいたほうが結局は得ということになります。契約期間は大多数が半年から数年です。
オフショア開発というのは生まれも育ちも全く違う国の人同士が共同で築き上げていく作業なわけですから、途中でズレが生じるのは当然のことです。例えば日本人にとって納期は絶対に守らなければならないものですが、他の国では「何が何でも」という概念はあまりありません。ですからこの辺りの誤差を常に頭に入れながら仕事を進めていかないと、大きなズレに悩むことになります。
日本側と現地でズレが生じないようにするために「ブリッジSE(エンジニア)」というものが存在します。ブリッジSEは日本語とオフショア先の言語を熟知した大切なコミュニケーターということになります。
おわりに
オフショア開発というのは言葉から内容がイメージしにくいのですが、平たく言ってしまえば日本企業の海外進出のことです。同じ業務を委託する場合でも、国内での委託であればオフショアリングではなくて「アウトソーシング」と呼んで区別します。
オフショアはIT業界でよく使われる言葉ですが、他の業界でもオフショアリングは存在します。例えばアニメーションのオフショアリングもそうですし、食品加工などの分野でもオフショアリングが進んでいます。
また、米国では医療データのデジタル化と管理といった医療業務までオフショアで行われています。自国の労働力の需要供給バランスを崩す危険性がないのであれば、企業のグローバル化は今後もますます拡大していくことが予想されます。